りんごのほっぺ
二人の話を耳にしながら水渡さんが出してくれたチーズケーキを口にする。
──・・・•っ、おいすぃ! 衝撃的な美味しさに頬が落ちた。口溶けといい、滑らかさといい絶妙なハーモニーを奏でていた。
レモンティーとの相性も抜群で、酸味の中のほのかな甘みが舌を優しく撫でていく。きっとお高いんだろうなあ。
こんなリッチな気分を味わえるなんて思いもしなかった。心が軽やかに弾んだ。
「──じゃあさ、」
チラリ、水渡さんの涼しげな目元がこちらに向けられる。
顔が真っ赤になる前にと瞬時に視線を床に放り投げた。たぶん凄く感じが悪い。
「林檎ちゃんが恥ずかしがり屋さんになった経緯とか理由を教えてくれないかな?」
私が不快にならないようにと優しい口調で、柔らかな声を出して、穏やかに聞いてくれた。
経緯、か。…って、いや、まだ那智さんにお願い事を聞いてもらうって決まった訳じゃない。──…ないんだけれど。
ええいっ、流れじゃ流れ!流れに乗ってやろうじゃないの!黄緑 緑!一肌脱ぐのよ!
乾いた唇を舐めて、ゴクリ、生唾を飲んだ。
「……じ、実は、わ、私の、名前に原因があるんです」
「名前ぇ?」
水渡さんが素っ頓狂な声を出した。予想のしていなかった答えだったのだろう。
那智さん達も首を傾げている。
無理もない。この人達は私の本名を知らないのだ。言うタイミングをことごとく逃してきたからね。