りんごのほっぺ



あまりの衝撃とショックに身体が硬直した。息が止まった。ていうか忘れた。私は危うく生きる事を放棄する所だった。


それくらいの衝撃だった。


──…カラオケ。


そう。それは重度赤面症である私の一生の天敵ともいえる因縁の相手なのだ!!!!



「絶っっっ対に嫌です!!!!」



ソファから立ち上がりここぞとばかりの大きな声を出して断固拒否を表明した。


だって、だってだってだってぇえ…!!

人前に出る事ですら苦手な私が、人前で、しかも長い事注目を受け続ける、いや、むしろ私に注目してえええええ!エクスタシー!あはん!なカラオケは究極の自殺行為にしか過ぎないのだ。


注目とかまじ無理!!!歌うとか家の風呂で充分!!!カラオケ作ったやつ私の前で土下座しろ!!!


はあはあと息を荒げる。ふんふんと鼻を膨らませ興奮する。私は身の危険を感じて可笑しくなっていた。


──する、と。


この人生最大の佳境ともいえる深刻な状況が那智さんのある発言によって更に深刻な方向へと転落していった。



「…オー、そおかそおか!林檎ちゃんはそんなに興奮する程カラオケが大好きだったのか!何だよ早く言えよなぁ水臭ぇ女だぜ」

「は?」



間髪入れずに出た”は?”に自分でも驚く。那智さんの発言にも心底驚く。目が溢れ落ちそうだった。


………っい、今の、どこをどう取ればカラオケ大好きに変換される訳?

私この身の全てを捧げるような勢いで拒否したよね?したよね?……ねえ、したよねぇええええ!?


那智さんの耳と脳味噌はどうなってるんですかあああああ!それはちゃんとした機能を果たしてるんですかあああああ!

ああああああああ!
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