りんごのほっぺ



「──さっ、林檎ちゃんは何を歌う?」



”あなたはどの男を選ぶ?❤︎”


みたいな乙女ゲームばりの雰囲気を前面に押し出してきたチッカさんは、おしりかじり虫で見事なトップバッターを飾った。

ジャニーズ顔負けのアイドルスマルを顔面に貼り付けながら額の汗を拭う。汗がキラキラと輝いていた。


踊り狂っていた那智軍団は椅子に座って水分補給。次の曲に備えているようだった。

どうやらカラオケで踊る事はこの人達の定番らしい。本当に愉快な軍団だ。



──…何を歌う、か。



ついに回ってきた私の番。2番目。おしりかじり虫の後。盛り上がった空気。異様なプレッシャー。

渡された電子目次録と睨めっこ。曲は探さず履歴コーナーを血眼で流し見。無駄な時間稼ぎ。でも1分1分が長い。……苦痛。

次第に気持ちが悪くなり、お昼に食べた柚子ネギうどんが胃から飛び出そうになった。



「ひょっとして林檎ちゃんは優柔不断ってやつか?」



一向に曲を決めない私に痺れを切らした那智さんが画面を覗き込んできた。

ふわっと香る那智さんの甘酸っぱい匂い。

この後に及んでビターオレンジの香りが心地良く感じた。胃の中に柚子ネギうどんが回収されていく。



「…う、歌いたい曲が無くて、」

「いつものやつでいーんだよ、いつものやつで」

「っいや、だからっ、いつものやつとか無くて…!カラオケなんて10数年ぶりに、」

「あ、これいーじゃん、これ!これにしようぜ林檎ちゃん!」



私の言葉を遮って電子目次録を奪い取ると光の速さで曲を選択して機械に転送した。




……。
…………え?

なにしてくれとんのじゃあああああああ!
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