りんごのほっぺ
でも、思い返せば。那智さんが私にしてくれている事はお節介とは言え全て優しさから来ているものだった。
3つの願いを叶えるとか、恥ずかしがり屋さんを治すとか。一応それは私の為にしてくれている事であって。
結局、一生の天敵だと忌み嫌っていたカラオケは凄く楽しかったし、あっさり人前で歌えてしまった。
こんな事が出来たり、人と何かをして楽しいと想えたのは生まれて初めてだ。
………那智さんってもしかして凄い人なのかも。ていうか魔法使いなのかな。
那智さんは最後の一滴までコーラを飲み干すとゴミ箱に缶を投げ捨てベンチから立ち上がった。
そして私の前に背中を向けてゆっくりとしゃがみ込む。
「はい、おんぶ」
那智さんの表情は見えないけど声色からして穏やかな事が分かった。きっとそんな柔らかな顔をしているのだろう。
ムクリ、起き上がって、数秒。那智さんの大きな背中を見つめる。
………本当に甘えちゃっても良いのだろうか。散々担がれといて(ほぼ不可抗力のやつ)今更気にするのもアレだけど。
「何?まだ帰りたくねえの?」
「…っえ、いや、帰りたいです」
「じゃあ早くしろよ」
「…あの、でも、その、」
「何だよ」
「ぱ、パンツとか、体重とか大丈夫かなって」
「うさちゃんと53キロくらいだろ?もうバレってから安心して乗りたまえ」
「いや48キロです!やっぱり重いですか私!?」
意外にも重たい数字を言われて不安になる。少しショックだった。
すると、チラリ、那智さんが眉間に皺を寄せながらこちらを振り返った。
「那智 麟之助をナメんなよ?林檎ちゃんくらい余裕で持てるっつーの」
「あいたっ!」
軽いデコピンを食らった。おでこを抑えて顔を顰める。い、痛い…。