悪魔の封印を解いちゃったので、クールな幼なじみと同居します!
「ほんと、佐奈ちゃんって鋭いよね。よく分かったね、俺と志保の気持ち」

「いや、2人が鈍感なだけ。2人以外全員気づいてるよ」

「えっ、嘘!?」


…それはこっちのセリフだよ、朔兄。

鈍感なのはお姉ちゃんだけじゃなくて朔兄もだったか。

頬を赤く染め目をまん丸にして驚く朔兄は何だか新鮮で、なんだか笑いが込み上げてきた。


「不束なお姉ちゃんですが、よろしくお願いします」


丁寧な言葉遣いで頭を下げると、朔兄は「こちらこそ」と言った。



「きみのお姉さんは、僕が必ず幸せにしますよ」



朔兄はこれ以上ないくらに優しい顔をした。

この顔が向けられたのが、この言葉を向けられたのがお姉ちゃん本人であったら、どれだけ彼女は幸せな顔をしただろう。

そしてそんな彼女の顔を彼が見ることができたのなら、彼はどれだけ幸せな顔をしただろう。


きっとそれは、砂糖にはちみつを溶かし込んだような甘い幸せ。


その甘さの欠片に触れて胸の傷がぎゅっと痛んだ。


あたしにも掴めるかもしれない、でも掴めないかもしれない。

掴めなかった時の恐怖が、冷たさが、あたしの中の弱さが纏わりついて強張る。


伸ばそうとした手も、引っ込んでしまう。


夏の鮮やかな温度の中、心がかじかんでいるのを感じた。

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