Love Cocktail
***

連れてこられたのは、結婚式のあったホテルの一室。

えーと……居間つき寝室ありの部屋って、なんて言うんだっけ?

「スィートルームかな」

答えられて赤面する。

「まだその癖は、直ってないんだな」

嬉しそうに言うことじゃないですが。

ソファを示されて、とりあえず座ると、オーナーも目の前に座った。

そしてお互いに無言で対峙する。

しばらくすると、メチャメチャ居心地が悪くなってきた。

えーと。何故、沈黙されるんでしょうかね?

「オーナー……。話があるなら何か話したらいかがですか」

「いやー……まぁ、そうなんだよね」

……何がですか。

オーナーは膝に頬杖をつく。

それから黙って、私をまじまじと見返してきた。

「何故、私を見てるんでしょうかね?」

「……感心してた」

「……何をですか」

「いや。あの状況で勇気があるなあ……と」

「おっしゃる意味が、解り兼ねますが……」

そう言うと、彼は急に立ち上がってティーサーバーの方へと歩いて行く。

「お茶はけっこうですけど」

止めたら止まった。

だけどそれは一瞬だけで、冷蔵庫からビールを出して一缶放り投げてくる。

「悪いが、素面では言いにくい」

ぶつぶつ言って、戻ってきた。

素面では言いにくい?
でしたら私は、この状況でいる事が居にくいよ。

いきなり公衆の面前で、訳も解らない事を叫ばれた上に、いきなりあんなところで抱きしめられて。

そして、こんなところにノコノコ連れて来られ……。

オーナーはビールのプルタブを開け、ビールをゴクゴクと飲んだ。

こんな飲み方するのは、大概は早苗さんが絡んだ時。

今日はその早苗さんと、オーナーにとっては従兄弟にあたる桐生氏の結婚式……。

「早苗さんの結婚式の愚痴には、もう、おつき合いしませんよお」

「そんな事じゃない」

言われて、眉を上げた。

今“そんな事じゃない”って言った?
早苗さんの結婚式をそれで片付けた?

「そんなに驚いた顔はしないでくれ。自分がここ一年どんな風だったのか、よく覚えている」

そう言うと難しい顔をして、目の前のコーヒーテーブルに空っぽの缶を置く。

それからちらっと私を見て、今度は困ったような顔をして俯いた。

「怒っているか?」

「別に……」

めちゃくちゃ不貞腐れたような“別に”だったけど、この際、気にしなくてもいいだろう。

「いいや。確実に怒っているだろう? 君は怒ると黙り込む」

解っているのなら、言わないで下さい。

口を閉じると、また沈黙が落ちた。

黙っていても話にはならないんですけどねえ。


一息ついて缶ビールを開けると、立ち上がって窓辺に近づく。

日が落ちかけて、少し暗くなって来た四角いガラスの向こう。そこに公園の敷地が見える。

あそこは児童会館。目の前には滑り台などの遊具たち。

その近くに殆ど公開されることがない東屋と、日本庭園が雪に埋まっている。

遠くに見えるのは、歴史的にも価値があるらしい洋館の青い屋根。

昔は噴水があった辺りに今は音楽ホールが建っていた。
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