Love Cocktail
全体的に奇妙な程に整理された、木々がどこか少し寂しい感じ。

秋になると公園の真っ正面からずらっと、カーブを描く銀杏並木が好きだった気がする。

どこでも、見た目はよく変わるなぁ。

変わるけど、変わらないものもある。

実際に私は“好き”……という気持ちを忘れてはいないんだよね。

離れて経った数カ月。

忙しいうちならいろんな事に蓋をして、見ないふりをするのは簡単だ。

だけど、あれから毎晩の様に閉店後の店で古い映画を見続けた。

古い映画はロマンチックで、白黒で、意味が不明に泣けたりして……。

もちろん、その中にはオーナーが演じたがっていた教授の姿もあった。

外見だけではなく、花売り娘は教授から綺麗な発音の綺麗な言葉を学ぶ。

そして上流階級の集まる社交界で見事なデビューを飾る。

まぁ、オーナーは教授の様に横暴でもなければ、皮肉屋の独身主義者でもないけれど……。

でも、花売り娘の心を理解しない、と言う点では全く同じかも知れない。

人の気も知れないで、生まれも育ちも下町の花売り娘を社交界の淑女としてデビューさせ、みんなを騙し通せた事に勝手に盛り上がる教授……。

勝手に検討違いして、オーナーも地雷を踏んでくれたけど。

それはもう、見事に思い切り地雷を踏みまくってくれたけど。

だからと言って……2年も想っていた、気持ちがいきなり消えてなくなる訳じゃない。

私が勝手に片思いして……そして、フラれただけなんだけど。

急に変われない思いは、時間があれば思い出に変わるはず。

こうして会うことさえなければ。

だから、ハッキリ会う前に消えようとしたのに。

何故、この人は、邪魔をするんだろう。

構わなければいいのに。フった相手を構うなんて、そんなのは優しさでも何でもない。

ある意味で残酷だ。

「……あれから、いろいろと考えさせられた」

オーナーが呟くように言ったので、彼を振り向く。

「戻って来てもらえないだろうか? 君がいないと……皆、元気がない」

……お店に?

君が欲しい、と言うのは、そういう事だったのか……と納得する。

「またバーテンダーが誰か雲隠れしましたか」

ビールを飲むと、とても苦い味がした。

苦くて、冷た過ぎる。

「いや……そうじゃないが」

「……なら、私がいなくたって、ちゃんとお店はまわりますよ」

その言葉に、オーナーは一瞬だけ身を硬くした。

それから、ゆっくりと私を見上げる。

「関西に、本当に行くつもりなのか?」

え? なんで知ってるの?

でもオーナーが知っているとすれば、情報源はただ一つだけなんだけど。

「……早苗さんに聞きましたか」

「いや。隆幸から」

すぐさま否定される。

なるほど。あの二人は夫婦になるだけはある。

隠し事は無し、と言う訳なんですね。
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