Love Cocktail
「君に去られてから、気づくなんて……俺も馬鹿だよね」

オーナーは自嘲するように笑って、それから目を細める。

「本当に……俺は馬鹿だ」

そうですね。馬鹿ですね。馬鹿なんでしょう。

後悔なんて先にできるものじゃないでしょうけど、後から悔やむのが後悔でしょう。

後悔してからでは、いろいろと遅いことだってあるんですよ。

こういう事はタイミングです。

いろんなことが組み合わさって、合致しないと崩れるだけ。

チャンスはそんなに転がっていないものなんです。

だけど……。

「ずるい……」

缶ビールを持ちながら、歪んでいく視界を隠して俯いた。

「とても、ずるい……」

震える声はどうしようもなくて、唇を噛み締め、首を振る。

「何故……もっと早く……」

どこか希望が見えちゃってる自分が悔しい。

立ち上がったオーナーに、ゆっくりと缶ビールを取り上げられ……そのまま両腕に抱き寄せられる。

「……うん。ごめん」

ギュッと抱きしめられ、鳴咽に息を詰まらせた。

「本当に、ごめん」

その胸を叩く。

叩いて、叩いて……そのまま、手に触れたシャツを掴む。

「傍にいてくれるのが……俺は、当たり前に思っていたんだ」

小さく呟かれて顔を上げると、困ったようにしているけど、優しい瞳と目が合った。

「いつだって俺を甘やかしてくれるから……ずっと傍にあるものだと、思っていた」

オーナーの唇が、そっと私の涙を辿る。

「それが当然だと思って、蔑ろにして……とても傷つけた」

肩に頭が乗せられ、その重みと温かさにまた涙が零れ落ちた。

「何をどうしたらいいか……全然、解らなくて」

黙って、首を振る。

どうしたらいいのかなんて、そんなことは私にも解らなかった。

「本当に、土壇場で気がついて……遅すぎて」

苦しいくらいに抱きしめられて。

どうしようもないくらい愛しくて……肩から顔を上げた彼とまた視線が合う。

「こんな情けない男だ。だが、君はまだ……好いてくれるだろうか?」

情けないのも貴方でしょう? そんなものはずいぶん前から知ってます。

だから答えなんて、ひとつ。

私が出せる答えなんて……きっとひとつなんだ。

性格が小悪魔で、頑固でひねくれてて、そしてどこか天然だと言われてるような私。

そんな私の、答えは……。

「手も顔も洗いました」

オーナーは、目を丸くして瞬きした。

それから、意味が解ると、ゆっくりと微笑む。

「上靴はどこだ?」

素直じゃない教授。

一度突き放した最後の最後、土壇場に花売り娘を迎え入れた。

その言葉こそ、きっと、相応しい。









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