Love Cocktail
「コンビニまで行けるくらいは回復したか」

近寄って来て、枕の下から隠した求人雑誌を引き抜く。

「君は店の雰囲気が見たいだけ? それとも、カクテルの修業がしたい?」

「両方?」

彼ははパラパラと雑誌をめくり、少しだけ眺めると勢いよく閉じた。

「じゃ、明日から俺と一緒に全店舗見てみる?」

全部の……?

キョトンとする私に彼は溜め息をついて布団をかけてくれた。

「都内だと38店舗。君がまわっていない店舗はたくさんあるよ」

そう言って、ネクタイを緩める。

「だが、カクテル修業はもういいんじゃ?」

「そんな訳にはいかないでしょ」

「そうかな? 君は俺の店で、かなり試作を作っていたと思うが」

ホテルのラウンジで、私は確かにかなりの試作品を作った覚えがある。

なんと中根さんは、そのレシピのほとんどをメニュー表に乗せたらしい。

……商魂逞しい人だ。

「でも、いつまでもオーナーのお世話になってる訳にもいかないし」

実は今、彼のマンションに寝泊まりしていたりする。

寝室と、書斎と、物置状態の部屋とリビング? こういう部屋をなんて言うんだろう?

「……3LDKだ」

また答えられて、真っ赤になる。

「吉岡。別に世話してる覚えはないから。君は気にしなくていい」

そんな事言われても気になるって。
オーナーはいつも真夜中に帰って来て、実はリビングのソファで寝ているし。

そんなの見つけちゃったら……ねぇ?

「吉岡には俺……どちらかと言うと、料理教室に行ってほしい気がするな」

ネクタイを外して、シャツのボタンを一つだけ開ける。

それを眺めて、ますます顔を赤らめた。

なんだか着替え姿を黙って見ているわけにもいかないんだけど、どうしていつもはお風呂場に行って着替える癖に、今日は何故、ここで着替え始めてるかな?

そんな貴方にはドキドキも半端ないんですけど。

私生活のオーナーは、やっぱりかなりの甘党で、冷凍庫の中身がほとんどアイスクリームだったり……それにはとってもビックリした。

書斎の4分1の棚は、古いロマンティックムービーのDVDばかりだったり……これはある程度、予想がついていた。

寝室のテレビまわりは、最新ゲーム機ばかりだったり……とにかく量が半端ない。

実はかなり料理が上手かったり……悔しいことに……。

ちなみに炊事洗濯をテキパキとこなし、ワイシャツにアイロンかけてるのを見て目を丸くしたのは昨日の事……なんて、イマイチつかみどころがないけど、元が元だし。

行動は男っぽいって言うか、色気があるって言うか……カッコイイんだよね~。
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