Love Cocktail
「だから……もう、すでに一緒になっていると言うか、なんて言うか……」

なってないなってない。ふざけるんじゃない。

「私は。その間、ずっと早苗さんのお話をお伺いしてましたがねぇ?」

オーナーは枕を取り上げ、バフ! と音をたてて顔を埋めた。

「そもそもあの人とはまったく違うじゃないか。確かに、秋元さんはまったく頓着しない人だけど!」

それって、かなり早苗さんに失礼じゃないか?

オーナーはしばらく枕を抱きしめて沈黙する。

それから、ポイ! と枕を投げ捨てて、今度は私を抱き寄せる。

「それは君だって同じじゃないか」

「いや、まぁ……よくわからないけど」

「結構苦労するだ。その人が財産が好きなのか、自分が好きなのか、それで苦労する」

「……はぁ」

それはそれは……お金持ちって、大変なんですね。

私にはわからない世界だわー。そういえばこの人御曹司だったねー。

忘れてたよ。本当に。

というか、私にも失礼な発言じゃないか?

「あのね?」

「君が違うのは解ってるよ」

ああ、そうですか。

「だから後は、俺の場合どれだけ素を見せられるかが問題なんだ」

「はい?」

「外面ってのは、かなり重労働なんだ」

「外面ですかぁ?」

「君はあまり見たことはないと……思うよ?」

外面。外面ねぇ? エロスケベで鈍感な事は知ってるし、どんなにカッコつけてもお酒には弱いし、今、まさに情けなさそうな姿さらしてるよね?

「そうなの?」

「うん……」

オーナーはゆっくりと両手の力を緩め、顔を覗き込んできた。

「秋元さんの前では素は出せなかったし、隆幸と結婚するって聞いて落ち込みはしたけど……焦りはしなかったかな」

微かに苦笑して、私の頬にそっと手を置いて上向かせる。

「俺は前に、言った事があると思うんだ。君は“家族みたいだ”って」

忘れられない言葉だよね。その言葉はきつかった覚えがある。

「だけど、君はまだ“家族”ではないから……」

静かな声に、胸がいっぱいになった。

その言葉も後悔してくれていたの?
“まだ”家族じゃないって?
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