Love Cocktail
真面目に教授になりきってるよ。

「あの。もう十八時近いですし、帰りませんか?」

助手席に座りながら、溜め息をついた。

「なんだ。疲れたか? 今日は出勤じゃないよな?」

「シフトでは休みです」

「ならいいじゃないか。せっかくだから他の奴の意見も聞こう」

他の奴? って、オーナーの交遊関係で、私が思いつくのは一人だけですが。

スマホで連絡をし始めた彼をぼんやりと眺める。

「……ああ、隆幸? はいはい。デートの最中に悪いね。ちょっと交ぜて」

やっぱりですかぁ。

「見てもらいたい人が……や、違うって。意見を聞きたいんだ」

シートベルトを着けながら首を振る。

自分の片思いの人と、その恋人である従兄弟さんと、ワザワザそのいちゃつきを見に行っちゃってどうするんですか。

「ああ。じゃあ」

オーナーはスマホをドライブモードにして、シートベルトを着けながら私を振り返った。

「パスタは平気?」

「麺類は好きですよぉ」

「よし。隆幸たち、そこに向かうらしいから、夕飯食べてからマンションまで送るよ」

「わかりましたぁ……」

もう、そう言うしかないよねぇ……。

しばらく車を走らせて、渋滞を避けたオーナーは、何かに気づいたように小さく声をあげた。

「どうかしましたか?」

「ルージュ。忘れてた」

貴方……化粧品まで選ぶ気だったんですか?

「コーラルピンクなら、持っていますよ」

「なら、なんでつけない」

信号待ちで車を停め、振り向かれて唇に視線を落とす。

ちょっと……その見方が……いつものオーナーでいて、オーナーじゃないようで、なんとなく男性! って感じでドキドキしてしまう。

女の唇を、何そんなに真剣に見てるんですか!!

「もしかして、今日は化粧してない?」

「休みの日は、お肌も休ませなきゃなんですよ」

「そうなの?」

いきなり頬を手の甲で撫でられ、飛び上がる。

「にゃ、にゃにを!?」

焦って噛んだ。

「にゃにおって……君」

吹き出されて、頬を膨らませる。
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