Love Cocktail
「ちょ、ちょっと噛んだんです」

今度は爆笑されて、その笑顔を横目で見ながらほんわりとした。

久々に見た笑った顔を見た気がする。

「いやぁ。君らしいって言うか……まぁ、いつまでもそのキャラでいて欲しいもんだね」

「……駄目だから、ご相談申し上げているんですよ」

ブツブツ言うと、オーナーは真顔に戻って頷いた。

「そうだった」

忘れてたんですか? 忘れていたんだよね。

ちょっと呆れたけど、後ろの車のクラクションに、青信号に気がついて車が動き出す。

「ま、持ってるなら、ルージュはつけて」

「はぁい」

バックを開けて化粧ポーチを探し出し、あまり使ってないコーラルピンクのリップを取り出した。

……ケア効果もあるからこのまま塗ってしまおう。
窓の方を向き、バックミラーを見ながらリップを塗って、それから唇を合わせて馴染ませる。

これでいいかなぁ。

リップをポーチにしまい、ふと顔を上げると、バックミラーの中のオーナーと一瞬だけ目が合った。

「なんですか?」

「いや……」

そう言いながら、無言でハンドルをきる。

「そう言えばさ……」

「はい」

「ランジェリーショップも行きそびれた」

「……はぁ」

……って、ええ!? そ、それは、下着も選ぶつもりだったということですか!?

「オーナー……確実にセクハラ親父に昇格ですかねぇ」

「や。包装を剥いだら、中身がガッカリってのはいかんだろう」

いや、待て。ちょっと待って。何故そこでそんな話に。

いやそれは……。

「……そこまで発展……と言うか、いきなり発展しませんて」

「いや。大丈夫だろう」

「何を根拠に!?」

「ああ……ま、いろいろと」

よく解らない人だ。

訝しんでいるうちに、車がレストランの駐車場に到着。

オーナーに手を貸されて、助手席から降りた。

こう言うのを、エスコートって言うんだろうか?

ちょっぴり照れながら店内に入ると、にこやかな桐生さんと、微か~に微笑む早苗さんに迎えられた。
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