Love Cocktail
「吉岡さん。何だかすっかり可愛らしいね」

紳士っぽく、穏やかな桐生さんの賛辞に頭を下げる。

「ありがとうございます」

オーナーが椅子を引いてくれて座ると、正面に興味津々の早苗さんを見つけた。

「どうしたんですか? 普段着はジーパンにシャツの吉岡さんが」

「えー……と」

何て言えばいいのやら、考えていたら……。

「年上彼氏ゲット作戦?」

意味不明の題名を、サラリとオーナーが答えた。

「え?」と、桐生さんが顔を上げオーナーをまじまじと見る。

それから、不思議そうに私を見た。

「何故?」

何故って……な、ななな何故でしょう?

とても驚く桐生さんが、一瞬後、痛そうな顔をした。
テーブルの下を覗くと、早苗さんの足が桐生さんの足を踏んでいる。

もしかして、もしかしなくても、桐生さんと早苗さんは気づいている!?

「え~と、ですね!」

なんとか説明しようてすると、オーナーが隣に座りながら頷いた。

「好みの違う彼氏を振り向かせるのに、可愛さアップの最中なんです」

にこやかに早苗さんに告げる。

「そうなんですか」

早苗さんも涼しい顔で頷いて、ふっと首を傾げ、それとなく不思議そうな表情を見せた。

「それと、一条さんと、どう関係してるんですか?」

最もな質問です。私、その早苗さんのさりげなさ、とても好きです。

オーナーはちらっと私を見た。

「この子に任せておいたら、とんでもないことになりそうでしたから、僕が口を挟んでいるだけです」

にこやかなオーナーに、桐生さんと早苗さんは、妙に穏やか~に頷いた。

穴があったら入りたい……とは、この事を言うんだ。
きっとそうだ。絶対にそうだ。

どうすればいいんだろう。
この奇妙なしらじらしさは。それを感じていないのはきっとオーナーだけという空気感。

「じゃ、注文を決めましょうか」

アッサリと桐生さんが話題を変えて、メニューを手渡してくれた。

……気を使ってくれたんだろうか。

「ここのパスタ。どれも美味しいですよ。オススメもありますけど、好きなの選んでも」

なんて、心遣いが素晴らしい!

「あ。パスタ大好きなので、とても楽しみですぅ!」

元気よく答えると、視界の隅にオーナーの苦笑が耳に入って来た。
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