Love Cocktail
「君を誘えと言われたんだが……無理そうだな?」

「いやぁ。今日は遠慮させて下さい~」

にこやかに言ってみたけど、オーナーの険しい表情は変わらず。

ゆっくりと上から順に視線を下げていって、彼は足元で目を止め……サッとハンカチを巻いた足を隠したけど、すでに遅かった。

いきなり横から抱き上げられて、目を見張る。

「オ、オーナー!?」

慌てる私は無視された。

そのまま従業員用の休憩所に向かい、誰もいないベンチに下ろされる。

「失礼する」

足元に膝まずき、カポンとパンプスを脱がせハンカチを取り去った。

その状態に一瞬『うわっ』という顔をして、それから立ち上がりスマホを取り出して操作する。

「もしもし。隆幸か?」

とても静かな声に、逆にこっちがオロオロした。

なんか、怒ってらっしゃいます?
フェミニストの貴方が、顔をしかめっぱなしなのは何故ですか?

「悪いが、行けなくなったから。吉岡を病院に連れて行く」

びょ……。

「病院!?」

ギョっとしたら返ってきたのは鋭い視線。オーナーは桐生氏であろう、通話先の相手に断りを入れて通信を切った。

「当然だろうが。なんて足になってるんだ君は」

「大丈夫ですよ! 単なる靴擦れなんですから!」

「あのミュールか」

いや、まぁ……その通りなんですけどね。

睨まれる視線にいたたまれなくなって、そっと視線を外す。

「最初から君の足に合わなそうだったのに無視するからだ」

足に合わなそう? そんなの足を見ただけで解るの?

どれだけ人の足を見てたわけです!?

「とにかく、ここまで悪化させといて馬鹿なことを言ってるんじゃない」

「馬鹿なことじゃ……!」

顔を上げた瞬間、バサリとジャケットが頭にかけられる。

「えぇ……?」

微かにムスクの香り、ジャケットの隙間から彼を見上げると、真面目な表情で頷かれた。

「膝にかけろ」

「あ、はい」

言われた通りに素直に膝にかけて、頭の中にハテナマークが飛び交い始める。

なんでだろう?
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