Love Cocktail
「履いてないんですかぁ?」

「今年の夏に、海で履こうかと思ってたんだが……結局行かなかったし」

海のシーズンはとうに過ぎている。
去年の夏なら、オーナーは女の人を誘って海水浴かキャンプに行ったはずだ。

そう考えて、苦笑した。

そう言われれば、最近お店に女性を連れて来ていないよね。

去年の冬にオーナーがお酒に酔って、いきなり早苗さんが好きだと私に向かって言って来て……それ以来、見ていない。

つまり、他の女性で気を紛らわす……なんて考えもつかなかった訳ですか。

そうでしょうとも。本気で誰かを好きになったのなら、他の人じゃ代用なんて出来ないんです。

合コンに参加してから、私も痛いほど解りました。
気は紛れるかもしれないけど、紛れるだけで解決になんてならない。

ぼんやりしていたら、オーナーは車を走らせながら少し苦笑した。

「だから、安心して履いて。俺は別に水虫とかじゃないし」

「水虫……」

オーナーが水虫でも、それはそれで納得と言うか?

いつもスーツに合わせた革靴だし。

「水虫に効く薬、知ってますよぉ」

「だから。違うって言ってるだろうが」

クスクス笑うと、オーナーもしょうがないなと言う風に笑ってくれた。

「……治るまでは、サンダルでいなさい。マネージャー達には話しておくから」

「あ、はい。ありがとうございます」

ぺこりと頭を下げると、彼は頷いてハンドルを指で叩き始めた。

「でも、あれだね」

「はい?」

「君の好きな人に、心配して貰えるかも知れないね」

「……さぁ、どうでしょうか?」

「何? 君の好きな人、そんなに薄情な奴なのか?」

これを自分の“責任”と感じる人みたいですが。

「馬鹿じゃないか! って怒られるんじゃないでしょうかねぇ」

「ああ。それは言えてる」

納得されるとされたで悲しくなるんですけど。

私はまだまだ妹分で手間のかかる従業員。

ただ、そう言われてる気がした。









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