Love Cocktail
「あ。助かった、吉岡さんまだいたんだね」

いましたけど、なにか?

「シフトでは、まだ、私はいる時間ですけど?」

「団体さまから、大口注文なんだよ~」

手元を見ると、やたらに長い伝票。

「解りました! プロの根性見せてみせます!」

両手を差し出して伝票を受け取る。

忙しい週末は、遅い時間にやって来るものだ。





***



深夜二時。結局、バタバタになるのも週末ですね~。

キュッキュッと使い終わった台を拭いて、それから使ったリキュール類をしまって在庫を確認。

飲み物のラストオーダーも終了!

厨房の皆はすでに後片付けも終わっていないし、今日もたくさん仕事をしたなぁ……と、振り返って固まった。

厨房の入口に、寄り掛かるようにオーナーの姿。

しかも腕組み無表情で私を眺めている。

……えーと。二時間くらい、待たせましたでしょうかねぇ。

「こんばんはぁ!」

「こんばんは……」

軽く片手を上げ、溜め息混じりのご挨拶ですかぁ?

「いったい、君のタイムスケジュールはどうなってるんだ?」

「えーと……すみません」

フキンをいじりながら、ちょっと俯く。

「君は基本、応援派遣要員だからタイムカードはないだろう」

「そうですね」

「つまり、居残っても時給は基本としてつかない。本来なら、フロアマネージャーから俺に連絡だが、それもきていないし……」

「よく存じ上げてます」

オーナーはまた溜め息をついた。

「ま、いい。こっちで残業つけるから」

「や。楽しかったんで別にいいです。フロアマネージャーにもそのように伝えていますし」

「そういう訳に行かないだろう」

「だって面白かったんだもん」

お客様の中にカクテルに詳しい人がいたらしくて、あのリキュールと、このリキュールと、なんて、事細かに注文受けて……。

作っているうちに楽しくなっていた。

これはもう、居酒屋色が濃厚なバーとは言え、バーテンダーの威信にかけて譲れないと言うか。

ちゃんとわかっている人にはそれなりのおもてなしをするのが礼儀と言うか。

ちらっと上目使いにオーナーを見上げ、ちょっともじもじしてしまう。
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