Love Cocktail
にこやかに後片付けを済ませ、ターンテーブルをふきんで拭くと、交代のバイト君にタッチ。

「あとよろしくです~」

「吉岡さん、お疲れ様です」

珍しく、普通に接してくるバイト君に手を振り厨房を後にした。

女子専用のロッカーでエプロンを外して、仕事用の黒いスラックスから膝丈のスカートに穿き替えてコックコートを脱ぐ。

コックコートは暑くていけない。
寒い時はいいけど、厨房なんて毎日常夏だし……。

Tシャツをブラウスに着替えてから、パタパタと顔を扇ぐ。

でも荷物になるし予備もあるから、洗濯は次回でいいや。

ロッカーの鍵を閉めて……あ、バック。

再度開けて、バックを取り出した。

携帯とお財布以外はあまり持ち歩かないから、たまにバックを持つと忘れがち。

中から化粧ポーチを出して、鏡を見ながらお化粧の点検。

髪はもともと天然パーマでクルクルだから仕方がない。手櫛で整えて、後はリップくらいでいいかな。

いつもなら、こんな事もしないんだけど今日は特別だ。
見た感じお化けには見えないから、いいとしておこう。

ポーチをしまって、ロッカールームを後にする。

薄暗い従業員通路を通って出口に向かうと、何故か発注ルームにいたオーナーに見つかった。

この神出鬼没さは、この人の売りなんだろうか?

「珍しいな、吉岡」

「何がですかぁ?」

ニッコリと切り返すと、オーナーは下から上へと視線を動かし、唇の辺りで眉をしかめた。

「君はローズ系よりピンク系の方が似合うよ」

……男性が女の化粧について語るなんて、どれだけスケコマシなんでしょうかね……。

「ご忠告、感謝します」

スタスタ歩きだすと、何故かオーナーもついてきた。

「まてまて吉岡」

「なんですか、オーナー」

「何故、今日に限って着飾っているんだ? いつもジーパンのくせして」

「合コンなんですぅ」

ニッコリ言うとオーナーは立ち止まった。

「合コン!?  お前がか?」

「そうなんです! 私が!」

何故、そこまで驚くのか……敢えて理由は聞かない方がいいかも知れない。

オーナーは、どことなく楽しそうにしながらも、何故か苦笑した。
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