Love Cocktail
実はそれはそれは、楽しい時間を過ごしたんですが……。

オーナーにとっては、二時間も待ちぼうけな訳で……。

ごめんなさいと言うしかないというか。

「ああ。わかったから。そんなに困った顔をするな」

いいえ。今、オーナーこそ困った顔をされてますが……。

「早く着替えて来なさい。車を出して来るから」

「はい。すみません」

「いいよ。助かったのは事実だ。今日の交代はほぼバイトだったしね」

厨房の電気を消しながら、同意して頷く。

「これで、古参のバーテンダーの志村さんがいれば、私もすんなり帰ったんですけど。バーの威信にかけて……」

「だからって、何も、お客様に挑戦しなくていいぞ?」

あ、そこらへんは聞いてましたか?

「お客様で、やたら注文の激しい人がいたんだろう? マネージャーが助かったと言っていたよ」

呆れ声だったけど、褒められてもいるようで少し照れちゃいますね。

「とにかく、着替えて来ます」

急いでロッカーに向かうと、手早く着替えて従業員の通用口に向かった。

そろそろ足の調子も戻ってきたし、オーナーの送り迎えも終わるかなぁ。

そうなると、ちょっと寂しいな。なんて思いつつ扉を開けた。

少しだけ、冷たくなった風が吹き抜ける。

秋はもう近いのかな……冷たい風にそんな事を思っていたら、短くクラクションを鳴らされた。

慌てて車の助手席に向かう。

「すみません。オーナー」

「何を黄昏れてたんだ。君は」

苦笑されて顔が火照ってしまう。

「別に、黄昏れてなんていませんよぅ!」

だいたい黄昏時なんて、とっくのとうに過ぎ去っているじゃないか。

シートベルトをしながら、ちょっとだけ頬を膨らませた。

「あぁ。好きな男のことでも考えていたんだね」

エンジンをかけながら言われ、ドキッとする。

それは間違いじゃないから困る。

「そんな事ありません!」

「あ。図星だったか?」

からかい交じりにと笑われて、ますますほてりが体中に広がっていった。

本人が、そんな事を言わないで下さい!

「じゃ、君の好きな人はカマクラの従業員か」

「え!?」

車を走らせながら、得意げになっているオーナーを眺める。

なんだか、勝手な推測が出来ているみたいですね。

独りよがりっていうか、鈍感だというか。
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