Love Cocktail
見ていても、桐生氏とオーナーは仲がいい感じだし。

その関係を壊さないように、二人とも解っていながら普通どおりに接しているという事かな。

私は、そんな真似は……思うだけでも嫌だ。

とてもスッキリしなくてモヤモヤする。

「オーナーは、早苗さんに告白しないんですか?」

呟くと、ハンドルを握る手が硬くなった。

「……するつもりはない」

「後悔しませんか?」

オーナーは疲れたように息を吐きだし、それから軽く首を振って一瞬だけ私を見ると、すぐに視線を外す。

「君に何故、教えちゃったんだろうね。俺は」

「オーナーは酔っていましたからぁ」

お酒はそんなに強くもないくせに、私と同じペースで飲みまくって。

思えばオーナーらしからぬ行動で……。

きっと、どうしようもない気持ちをお酒に紛らわせようとしていて……つい、本音が出たんだろう……と思う。


貴方に片思い中の私には、全く気付かずに。


車がマンションの前について、静かに停まった。

「じゃ……会うなら、よろしく言っといて」

シートベルトを外して、助手席のドアを開けながら目を細める。

何もしなければ何も変わらない。

安穏としていられるとは思う。

でも、変えていく勇気というものも時には必要だと思う。

「あ。明後日は何時から?」

たぶん明後日のシフトの事だろう。

知っているはずなのに念の為に確認するのは慎重なオーナーらしい。

車道に降り立ち、オーナーを振り返った。

「もう、送り迎えはいいですから」

言うと、彼は目を丸くして首を傾げる。

「足は……?」

「もう、平気ですし。それに、変な噂も出てるみたいですし」

オーナーの眉がほんの少しひそめられた。

「噂……?」

「オーナーと私がつき合ってるって」

そんな噂。全然そんなんじゃないのに。
まったく違うのに……嬉しいけれど痛すぎる。

「ああ。それは悪かった。好きな人に誤解されたのかな?」

……そんな気遣いも痛すぎるけど。

「オーナーは気にしなくていいですよ! 私も気にしていませんから!」

元気よく言って、ドアを閉めると軽く手を振る。

それから、振り返ることなくにマンションの階段を上がった。

二階に着いた頃に、車道を走り去るオーナーの車の音が聞こえる。

それが聞こえなくなるまでその場で立ち止まり……小さく息をついた。
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