Love Cocktail
「なんだ。男に飢えてるなら、いつでも相手になったのに」

思わずスーツのネクタイをつかみ取ると、ぐいっと引っ張ってから微笑みを浮かべる。

「オーナー。口は禍のもとってことわざ、ご存知です?」

ずいっと顔を寄せると、オーナーは両手を上げて降参した。

「もちろん。知ってる」

貴方のその顔で言われたら、かなり洒落にならない!

従兄弟の桐生さんも、かなりのいい男だけど、オーナーだってイケメンだし。

「オーナー……いくつでした?」

「今年二十九だが……」

「私は二十二です。援交になっちゃいますかね?」

呟いて、ネクタイから手を離す。

「では、お先です~」

出来るだけ軽~い足取りで、通用口を抜けた。





私とオーナーの出会いは、だいたい二年前の春に遡る。

個室バー・カマクラという名前の、ある意味個室になりきれてない、奇妙なバーの面接だった。

「え。二十歳でバーテンダーが希望なのか?」

少し驚いた感じの、眉目秀麗な顔が印象的な若いオーナー。

「はい。実家も小さいバーを営んでおりまして、経験は豊富にあります!」

バーテンダーのコンクールには出てないけど、前の店ではそれなりにお客様がついてくれていた。

「前職がファミレス……クオリティ・グループのウェイトレス?」

「カクテルも作ってましたぁ」

「僕の店は、クオリティ・グループとはライバル関係にあるって気づいているかな?」

困ったように笑われて、営業スマイルを返す。

「私は、そこの偉い人をこき使って店長に首にされたんですよ。肝が小さいですよね!」

言った瞬間は沈黙されて、次の瞬間に大爆笑された。

その笑顔があまりにも楽しそうで。
ちょっといいな……と、この時に思った。

だけど……。

お店には、毎回違う女性と現れる。

去年の末には従兄弟の彼女に片思いして、人の事を夜中に呼び出し、飲んでいたらお酒に酔って愚痴りはじめる。

最初の半年は、厨房にも入れさせてくれずにウェイトレスさせられたし。

吉岡は若いからフットワーク軽いだろ? と言う理由で、あっちこっちの応援要員みたいに、店舗を掛け持ちさせられて……。
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