Love Cocktail
「……吉岡の声がしなかったか?」

ひょいと発注ルームからオーナーが顔を出して、ぎょっとした私と目が合う。

い、今の、見られてないよね?

「どうしたんだ?」

首を傾げられ、パッと赤城さんから離れた。

「なんでもないです!」

慌てて言うと、赤城さんはちょっと不思議そうな顔をしたけど、それには何も言わずに頷く。

「それならいいけど。じゃ、僕はこれで」

オーナーと私に頭を下げ、彼は通用口から出て行った。

何しに来ていたんだろう?

不思議に思って後姿を見送っていると、オーナーが手招きした。

「吉岡。ちょうどいい所に来た」

「はい?」

「少しだけ、話があるんだが……いいかな?」

なんの話だろう?

重くなった紙袋を抱え直し、発注ルームへと向かう。

発注ルームの奥はマネージャー室になっていて、普段は一号店のマネージャーがいるけれど、今はオーナー以外誰もいない。

「ま、そこにかけて……」

ソファを勧められ、荷物を足元に置いて目を丸くされる。

「ずいぶん、楽しんだようだね」

「はい! あ。そうだ。ネクタイピンです!」

紙袋から小さな箱を取り出して差し出すと……一瞬、オーナーの笑顔が固まった気がした。

「君は……真面目に買ったのか」

「私はいつでも真面目ですけど」

「ネクタイピンなんて、けっこう値段がするだろう」

「幸い、払いのいいオーナーなので苦労はしませんからぁ」

澄まして言うと、ちょっと笑われる。

「だが……」

「花売り娘の御礼だと思えば安いものでしょう?」

プレゼントされた服代だけでもかなりかかってると思うし。

あれをトータルで考えると、これはもっと安いんじゃないかなって思う。

オーナーは楽しく考えるような顔をして、しばらくすると頷いた。

「じゃ、ありがたく」

ひょいと小箱を手に取って、中身を見ずにジャケットのポケットにそのまま入れた。

「それで、話の方なんだが」

目の前に座ってから、オーナーは突然話を切り出し始める。

「今日、何人か面接をしてね。それで足りなかったバーテンダーを増員出来た事は出来たんで、君の在籍をホテルのラウンジの方に移ししたいんだが」

指を組んで、真摯な視線を向けられた。
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