Love Cocktail
「あそこは表に出るのが基本だから赤城君に頼んでみたんだが……どうも大学から離れる場所になると難しいらしくてね」

「あ、じゃあ巡回も終わりって感じですか?」

「そう。ただ君の場合は女性の危険手当として給与はこのままでどうだろうか?」

「危険手当ですか?」

オーナーは頷いて、今度は足を組んでソファの背もたれに寄り掛かった。

「都心のホテル……とは言え、いろんな客がいるからね。週一ならともかく、ずっと、ともなると。シフトも誰かの交代要員という訳でもないし」

「ええと。基本は17時から0時のシフトでしたか?」

「一応」

オーナーは呟いて腕を組む。

「入ったばかりの新人をやれないからね。それこそバーテンダーとしてきちんと出来る人材じゃないと。店の格というものがある」

店の格。店のランクとかそういうものなのかな?

「居酒屋風のバーであれば、そこらのバイトで用は足りるが、ホテルのラウンジともなると腕のいいバーテンじゃないと店の恥だ」

難しい表情で言われてキョトンとする。

そして、言葉の意味が飲み込めると嬉しくなった。

それってことはつまり、バーテンダーとして認められた訳で。

しかも、オーナーに認められた訳で……。

「OKですよ!」

にこやかに言うと、オーナーは身を乗り出した。

「本当に?」

「こんなことで、嘘ついてどうするんですか」

「いや。俺は別に、どうもしないが?」

素で言われて脱力する。

うん。私も、どうにかしてなんて言っていない。

嘘ついてもしょうがないって意味なんですが……放っておこう。

「それにしても、わざわざタイピンを届けに来てくれたの?」

そう言われて、瞬きする。

さすがにオーナーがここにいるなんて思っても見なかったですけど。

「たまたまです」

「休みなのに?」

「……荷物が多くなっちゃって、ロッカーに置いて行こうかと」

「そんなもの、タクシーで帰ればいいじゃないか」

それはそうなんだろうけどね。

タクシー代だって馬鹿にならないんですよ。

「すっからかんなんです」

「すっからかん?」

「どうもお財布の中身が北風で」

言った瞬間。大爆笑された。









< 42 / 112 >

この作品をシェア

pagetop