Love Cocktail
「いや。君が鍋奉行だとは知らなかったよ」

さわやかに微笑まれて、私もにっこりと返す。

「実家ではうちの母が鍋奉行です!」

「吉岡の母親か……。何か見たいような見たくないような……」

「心配しなくても、うちの母はそれはもう大人しい人です! 鍋以外」

実際、父と兄貴と私いれば口を挟む暇がない、と、母は言うけれど……本当にそうだから何とも言えないんだな。

オーナーは徳利から熱燗を注ぎ分け、一つのお猪口を渡してくれた。

今日の勝負は熱燗。とにかく、酔い潰れた方の負け。

「……よし。じゃあ乾杯だ」

「乾杯です!」

軽くお猪口を合わせて、お互いにくいっと飲み干す。

ちょっと辛口の日本酒が、とっても美味しい。

「吉岡の実家は、確か札幌だったか?」

鍋の蓋をしながら頷く。

「札幌ですけど、残念ながら牛は飼っていませんよぉ」

からかうつもりで言うと、とっても奇妙な顔をされた。

「……札幌で牛? 君の実家はバーじゃなかったか?」

今度は私が面食らって目を丸くする。

もしかしてオーナー……2年も前の話を、覚えていたんですか?

「バーです! ただ、こっちの人のイメージがソレみたいでした」

「札幌で牛を飼っている家があると……? 安心しなさい。俺は何度も札幌に行っているから」

苦笑しながら、また徳利を傾ける。

「今の時期は、雪が積もっているのかな?」

「ん~。どうでしょう。山の方なら……そろそろ積もってるでしょうけど。本格的なのは12月の終わりか、1月くらいですね」

オーナーは頷いて、また乾杯の仕種をする。

同時にお猪口を持ちながら中身を飲み干した。

ちょっと……オーナーにしてはペースが早い?

「オーナー。お鍋を食べてからにしましょう?」

さりげなく徳利を取り上げると、少しだけ困った顔をされた。

「何故?」

「今の時間にお鍋ってことは、オーナーもお腹空いてたんでしょう? すきっ腹にお酒は悪酔いしやすいですからよくないです」

「ああ、そうかもね」

苦笑して手を置く。

ただちょっと手持ち無沙汰らしく、腕を組んでからちらっと私を見てくる。

その様子が子供っぽくて、ちょっとかわいい。

年上の男性に言う事では絶対にありませんけど。
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