Love Cocktail
「急に言われたって、いきなり替えの人間なんているはずないでしょう!」

『でもねぇ。これから店も忙しくなるし。お父さん一人じゃ……』

「や。言ってることは解るけど。私だって、急にこっちの仕事に穴空けられないし!」

オーナーに迷惑かけられないし。

だいたい社会人としてダメでしょう?

『来月はクリスマスだし、年末で忘年会だし……』

「それは私の働く店でも同じことでしょ! 働くからには私だって無責任にはなりたくないよ。勝手な事ばかり言わないで!」

電話の向こうでなにやらガサゴソと音がして、イキナリに父さんの声が聞こえた。

『おう! 元気か?』

元気いっぱいのその声に毒気を抜かれる。

「……お疲れ。父さんこそ元気?」

『父さんは元気だ。馬鹿やって元気がねぇのは兄ちゃんの方だな』

まぁ、そうなんだろうけどね。

「ごめん。急に言われても帰れないよぅ」

『ま、働く人間なら当たり前な事だな。お前は責任感もあるし、そんな無茶は言わないだろう!』

ケラケラと笑う父さんに少しだけホッとした。

「お店一人で大丈夫?」

『ま、なんとかなるだろう。今は昔と違って、ススキノもどこも不景気だからなぁ!』

「そっかぁ……大丈夫なら、いいんだけど」

『お前はそんな心配せんでもいい。店は父さんに任せとけ! そんな事より、お前はちゃんと食ってるか?』

「え? ちゃんと食べてるよぅ!」

『ならいい。じゃあな!』

元気よく言われて、一方的に通話を切られた。

しばらくスマホを眺め、それから充電器に挿し直す。

うーん。大丈夫とは言ってるけど……大丈夫かなぁ。

父さんは無茶しいだから。

ペットボトルを開けつつ首を傾げる。

それから一人掛けソファに座って、お茶を飲んだ。

ま、何にせよ、どうしようもなくなったら、また母さんから緊急電話があるでしょう。

テレビをつけて、ぼんやりと眺める。

やっているのはお昼のバラエティ番組で、今日のゲストは、あんまり見たことがないゲストさんだ。

テレビってあんまり見ないから、俳優なのか芸人なのかもわからない。

つけていてもBGMにするだけだし……。

溜め息をついて、カーテンを開けに行った。

日差しが強くてとってもいい天気。

ワンルームの部屋だから、これだけで部屋中が明るくなる。

それから、目に入ったぐちゃぐちゃなベッドと、斜めになったパイプハンガーを直した。

お洗濯は一昨日に済ませたし、掃除機は毎日かけてるから夕方でもいい。

……出掛ける事にするかな。

「よぉし!」
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