Love Cocktail
まずは歯磨き。

シャワーを浴びてから化粧水をつけ、髪を乾かしてから服を着替える。

化粧はどうしようか……とりあえずピンク系のリップだけをして、バックの中身を点検。

お財布にスマホに一応の化粧ポーチに、ハンカチとティッシュ。

よし、女子らしい中身!

あれ、でも何か足りない? まぁ、いつもバックはガラガラだし、いつもよりは中身があると思う。

ブーツを履き、勢いよくドアを開け……。

ゴン! と言う派手な音に手を止めた。

「──……っ」

微かな呻きにドアから恐る恐る顔を覗かせると、スーツ姿の男性がしゃがみこんでいる。

あれ?

「オーナー? こんなところで、何をやってるんですかぁ?」

「君には、何をしているように見えるんだ!?」

顔を押さえて、うずくまったまま怒鳴られた。

「うずくまっている様に、見えます……ね」

とても怨念のこめられた視線でジロッと睨まれる。

とりあえず、笑うしかないかも。

痛いよねー。よーく解りますー。

「まずは、顔を冷やしましょうかぁ」

顔を押さえたままのオーナーを立ち上がらせ、それからブーツを脱ぎ、その手を引いて部屋に案内した。

「とりあえず、ここに座って下さい」

一人掛けのソファに座らせてオーナーの顔を覗き込む。

あの手応えからして、相当にぶつけた様な気がするなぁ。

腫れてはいないけど、鼻が真っ赤だ。

「鼻血とかは……平気そうですね」

頷いて、水で濡らしたタオルを手渡す。

「……ありがとう」

「いえいえ」

そう言いながら、ベッドに座った。

オーナーはタオルで鼻を押さえながら深~い溜め息。

顔面じゃなくて、鼻が一番大打撃だったらしい。鼻が高いんですね~。

「それで、何をしにここへ来たんですか?」

用もなく私の部屋に来るとは思えないし、何か約束した記憶もない。

オーナーはスーツのジャケットから茶色のパスケースを取り出す。

「俺の荷物に紛れ込んでいた」

「あれ……」

そう言えば、バックの中にパスケースはなかったかも。

それが足りなかったのか。

「わざわざ、ありがとうございます」

受け取って頭を下げ、顔を上げた時、どことなく不思議そうに部屋を見回していたオーナーと目が合った。

「何か?」

彼は頷いて、顔からタオルを避ける。
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