Love Cocktail
これでも、伊達に繁華街を廻っていない。彼が向かう先は、ラブホテル街!

間違いなくこれはヤバイ!

「ちょっと……名前知らないけど何とか君! この手を離してください!」

「え~? なんでさ。吉岡さんは大人でしょ?」

それとこれと、なんの関係があると……!?

「だって、男を探しに来てたんでしょう? 幹事に頼んだって、他の子から聞いてるよ」

言われて真っ赤になった。

正確には“出会い”を求めていたけど“男”を求めたわけじゃない。

「ちゃんと、俺が慰めてあげるからさ~」

そう言って、引き寄せようとして来たので足を踏ん張ってしまう。

「そう硬くならないでよ。乱暴にはしないし」

「冗談じゃないです~!」

「いいじゃんか。減るもんでもないんだし~?」

いいえ! 貴方とラブホなんて行ったら、私は確実に心を失います!

「嫌だったら嫌です~」

叫んでも、この辺りは人の気配もなく、彼と私と腕と根気の綱引き状態。

「吉岡さぁん。そんな冷たいこと言わないでさぁ」

ぎゅっと目をつぶる。

「冷たくていいんです! 私はそんな軽い女じゃありません!」

「その通りだな」

背後から急に聞き覚えのある声がして、思わずポカンとして力が抜ける。

あっと思った時には体勢が崩れ、身体が前に泳ぎ……。

「きゃぅ!」

腕を掴んでいた手が引き離れて、私は何かに頭から突っ込んだ。

「うわっ!」

ドサッと音がして、どうやら向こうは転んだらしい。

慌てて顔を上げ、呆れたような視線と目が合う。

黒いスーツのオーナー。

どこからそんなことになったのか、全くわからないけど、オーナーの胸元に飛び込んでいたらしい。

そしてオーナーの両手が、何故か私の背中にまわっている。

「……っ!?」

声もない私の肩を抱き直して、オーナーは足元の彼を見下ろした。

「女性に対して、男が腕力で挑もうとするなど、君は恥だと思わないか?」

静かな声音に、尻餅をついたまま彼は顔をしかめる。

「何だよ! あんた!」

「さて……?」

オーナーは私の手を取ると、まるでダンスのターンをさせるようにクルクルとその背に隠してくれた。

それから彼に向き直る。

「君には、私は何に見えるかな?」
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