Love Cocktail
「えとですね。天井が残念ながら少々低いです」

「……そればかりは、少しどうしようもないかな。新店オープンの時にでも何か考えよう」

オーナーも天井を見上げ、溜め息をついた。

「では、オーナー。どうぞ召し上がれぇ」

目の前に置かれた試作品その2とマリブミルクのグラスに、オーナーの顔が引き攣る。

「それはもっと無理だ」

小さな呟きに、営業スマイルを浮かべた。

結局、そのマリブミルクは厨房の上がるメンバーに飲ませて、オーナーは試作品を全部飲んでしまって酔っ払う。

「……これがクリスマス用でいいでしょうかね?」

満面の笑みで呟くと、中根さんは眠そうなオーナーを眺め頷いた。

「きっといいと思うよ」

「だから、全部飲んじゃ駄目ですよって言ったのに」

「メニュー見てたから、聞いてなかったんだろ?」

頭を押さえるオーナーに少し苦笑する。

「少し休んで行かれればいいですよ! 今、酔い醒ましのカクテルを作って差し上げますから」

「青汁とかウコンは勘弁してくれ」

ぼやくようなオーナーに苦笑した。

「そんなもん、うちの店にはありませんからぁ!」

抹茶なら、今、手元にあるけどね。

ニヤリと笑うと、ぬるま湯にそれをたっぷり入れてシェイクする。

中根さんはその様子に微笑み、厨房から湯飲みを持って来てくれた。

お互いに共犯者の含み笑みで、オーナーの前に湯飲みを置く。

「……煎茶?」

一口飲んで、盛大に咳込んだ。

「吉岡っ! これ、濃過ぎるだろうが!」

「つぶ餡を召し上がりますかぁ?」

にっこり微笑みを浮かべる私を、オーナーは涙目で睨む。

「このっ……小悪魔が!」

「どスケベよりはマシですかね?」

中根さんは笑いながら床にはいつくばり、オーナーは深い溜め息をついた。

「吉岡……君とは少し、いや、きちんと話し合った方がいいみたいだな」

「でも、酔いは醒めたでしょう?」

オーナーの目の前につぶ餡とウェハースを乗せた皿を置き、可愛らしく小首をかしげて思い切り作り笑いを見せる。

「本当はシジミのおみそ汁とかの方が、良いのかも知れませんが……」

その言葉にオーナーはさっと青ざめた。

「あのみそ汁だか、焦がし味噌だか解らんような物体をまた出そうものなら、俺は逃げるぞ!」

こがし味噌って。あんまりですね。
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