Love Cocktail
カマクラ型のブースの向こうに、驚いた様な顔の長身のスーツ姿。

「どうした? 君……」

彼は言いかけて言葉を止めると、私の表情を不思議そうに眺めてから顔をしかめた。

「オーナー……私は少しお話があるんですが!」

「ああ。解った。マネージャー室に行こうか?」

オーナーは持っていた黒いファイルを閉じ、つかつかと近づいて来る。

それから黙っている私の横を通り過ぎて行くから、その後姿を追った。

マネージャー室に入るとオーナーは私にソファを薦め、自分も目の前のソファに座る。

「どうした? 深刻な顔をして、実家の方がやはり大変なのか?」

また検討違いしているよ。

思わずキュッと唇を噛み締めた。

「私、赤城さんを好きじゃありませんが」

出来るだけ低い声で囁くと、オーナーはポカンとした顔をする。

「……と言うか、オーナーには、好きな人の事はお伝えした事はないと思いますが」

「え……いや、しかし。厨房のメンバーが揃って、君が赤城君と楽しそうに話していたと……」

「何故、私に確認も取らずに一人で勝手に決め付けているんですか」

怒ったように言うと、少しだけ困った顔をされる。

困っているのはこちらですからね!

「だが君は赤城君に支えられて顔を赤くしていたし、その後で俺に見つかってパッと離れたし……?」

その想像力豊かともいえる勘違いに溜め息をついた。

「赤城さんが開けたドアに体当たりしたんです。痛かった覚えはあります」

オーナーはますます困った顔になる。

「つまり……はやとちりしたか?」

「そうですね」

「しかしな、かなり経つのに君はなんの進展も見せてないじゃないか」

「服装は、ちゃんと変わったじゃないですか」

「それだけじゃ、駄目だろう? 見ているだけじゃ……」

バン! と、目の前にあるテーブルを思いきり叩くと、目を丸くしたオーナーを睨んだ。

「オーナーには、言われたくないですが!」

その言葉に彼も目をスッと細める。

「だからこそ、言うんだろう? 俺の様に八方塞がりになる前に──……」

八方塞がり……それを言うのなら最初から八方塞がりになっていたと思う。

貴方は早苗さんが好きで……その事を、私に隠そうともしてこなかった。

「だから、俺は出来るだけ……」

「最初は、諦めようとしましたよ」

さえぎるように話し始めたら、オーナーは黙り込む。

そうなんだよね。諦めちゃえと思って合コンにも行ってみた。

「でも、オーナーを見てたらそれじゃ駄目なんだと思いました」
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