Love Cocktail
第三章

Rusty nail

*****



「ええ!?  そんな。困るよ吉岡さん」

マネージャーの困り顔には申し訳ありません、でも両手を合わせてマネージャーに頭を下げる。

「ですが、うちもピンチなんですぅ! 兄貴が事故で入院で、親父様がギックリ腰で入院しちゃって……母はお店の方がからっきしな駄目な人なんですぅ!」

「しかし……何もこんな時に」

困りきった顔をするマネージャーに、まわりを見ながら頷く。

「私もお店の状況は判りますから。今すぐじゃなくていいんです。最低限イヴ当日まではいますから!」

とにかく、うちは店開ける状態じゃないので、12月は休業にしてもらっている。

飲食業で12月の休みはかなり痛手だけど、もうそれは仕方がないと母さんには言ってあった。

「だからって、辞める事はないでしょう?」

淡々と言われて、頭をかく。

「吉岡さんのお兄さんが退院するまで休職扱いとか、いろいろと他にも方法はあるでしょう?」

「でもぉ。そろそろ、自分も夢を追おうと思いまして」

にっこりすると、マネージャーは目を丸くした。

「夢……?」

「はい! 私は自分のお店を持ちたいので、こちらでいろいろと勉強させて頂きましたが、そろそろ別のお店も見てみたいと思います!」

キッパリ言った私に、マネージャーは深い溜め息をついた。

「あー……女の子は決めたら早いっていうけど……」

「ですので、これを機にと言うか?」

上目使いで覗き込むと、マネージャーは脱力していく。

「オーナーに、話しておくよ」

「お願いします!」

にこやかに言って、厨房を抜けカウンターに戻った。

なぜか中根さんが少し苦笑している。

「なんですか?」

「社員に引っ張り上げておかなかったオーナーの落ち度だな……と思って。バイトちゃんなんだもんなー、吉岡さん」

「あらぁ……聞こえてましたか?」

「お客様いないから……」

言われて、フロア内を見渡すと、確かに席はガラガラだ。

「まだ18時ですからねえ!」

「まぁね」

それから中根さんは、シフトの紙を見て少し考える。

「それで、休みは毎週木曜に変更?」

「はい。木曜日は母から定期連絡入ることになってまして、夜にも電話出れないと!」

あっけらかんと答えると、彼は目を細めて笑いながら、何故かじろじろと見返してきた。
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