Love Cocktail
「ありますよ」

背後から聞こえた声に、振り返った。

そこにいたのは白い髪をお洒落に撫で付けた、ピシッと折り目正しいスーツ姿の初老の男性。

確か、このホテルの支配人?

「ビジネスタイプのシングルでよければ……空きはあります」

「あるんですか?」

「はい。何かあった時の非常用に、どんな時もいくつか空室にしておくものですからね。確か吉岡さん……でしたか? どうしますか?」

え。なんだか嬉しいかも。

「はい。じゃあ、よければお願いします!」

優しい支配人に感謝しつつ、頭を下げた。

そしてその晩はクリスマスに忙しい仲間うちのパーティーが多いらしく、早い時間帯から賑やかで、中根さんはいつも通りに、庄司君は元気よく、浅間さんは爽やかにこやかに。

私はたまにフレアバーテンディングしながら、それぞれの仕事をこなしていった。





***



「結構23日も、お客様は来るものなんですね~」

閉店して、後片付けをしながら呟くと……。

「イヴは彼女と、イヴイヴは仲間とってね!」

浅間さんがウィンクして、にこやかにマネージャーを振り返る。

「ね! マネージャー!」

マネージャーがファイルから苦笑と一緒に顔を上げた。

「それは、ここで何かすると言う……そういう事をもくろんでいるのかい?」

「カクテルの試作会とか! 当然、飲む人もいなくちゃねぇ!」

明るい浅間さんにマネージャーは首を振って、手にしたファイルを閉じるとにっこりと私を見た。

「そうだね……吉岡さんの送別会も兼ねて遊んでしまおうか」

「そうこなくっちゃ!」

浅間さんは指を鳴らすと、まだ残っていた厨房組を引き留めに行った。

「元気な人だなぁ」

庄司君の声に中根さんが笑い、洗ったばかりのシェーカーを厨房に運ぶ。

厨房に入ると、驚いたことに居残った全員が揃っていた。

仕込みはもちろん使えないけど、軽いおつまみを作ったり、それを食べながらバーテンダー組が作ったカクテルを飲んだりして騒ぎ始める。
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