Love Cocktail
「吉岡さん。ジャグリング教えてよ。フレアなんちゃらとかいうの」

浅間さんが言うので、教えている最中……。

「あ。こら! そこのウィスキーはヴィンテージものだ! 手を出すな! ダメだぞ!」

と、マネージャーが厨房を走り回ったりして。

「これ僕の新作です!」

庄司君が新作カクテルを披露して……。

「なんだこれは!」

「辛っ!」

「激辛ハバネロカクテルですよ~」

と、自信満々のヘンテコカクテルが大不評に終わったりしながら飲みまくった。

私も色々カクテルを試し作りしながら、それを中根さんに試飲してもらう。

「これ。面白い味だなぁ」

カクテルグラスに入った淡い乳白色のカクテル。それを眺め、中根さんは呟いた。

「上はマリブ、下が?」

「上はマリブミルクメインのフローズンで、ジンジャーも少し、一番下はカルアです」

にっこり微笑むと、中根さんはカクテルを飲みながら苦笑した。

「悪酔いしそうなカクテルだ」

「あー……甘いですかね?」

カクテルグラスの底から、カルアの茶がにじむ。

雪が解ける間近の道路みたい。

結構春先になるとぐっちゃぐちゃで、ちょっと茶色っぽく見えるときもある。

それを眺めていたら、中根さんが頷いた。

「マリブは甘くて、ジンジャーは刺激的、コーヒーは落ち着けるかな?」

その言葉に、思い出す声があって固まった。

“色艶があって、甘くて刺激的で、それでいて落ち着ける感じ?”

それは、オーナーが言った言葉だ。

「色艶は作ったバーテンダーの事を思い浮かべればいいかな。どこか切ない表情は色っぽいって知ってた?」

にっこりと笑顔を貼り付けて中根さんを見上げる。

「何言ってるんですか、中根さんってば!」

バンバン腕を叩くと、中根さんはバンザイして『はいはい』と降参されて、苦笑しながらシェーカーを洗っていると、今度は私がぽんぽんと頭を叩かれる。

「これのイメージは?」

問われて、首を傾げた。

雪解けの道路……じゃ、あまりにも夢がない。

ふんわりと、雪が降り積もる土の色……雪に覆われて、凍てついた大地でも、時が経てば春は訪れるものだ。

「泡の雪……」

それから首を振り、中根さんを見上げる。

「淡い雪ですかねぇ?」

呟くと、優しい笑顔が返ってきた。










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