Love Cocktail

Mojito

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引っ越しが終わって、ゴミ捨ても終わって、掃除も終わって。

何も無くなったガランとした部屋に、太陽の光が眩しいくらいに差し込んでくる。

この街の今年のクリスマスは雪が降らないのかな。
ま、いいでしょう。実家に帰れば嫌になるほど目にするものだし。

キャリーケースを持ち上げて、階段を下りながらサングラスをかけた。

それから一階に下りて、大家さんに鍵を返してから軽い挨拶を交わす。

『元気でね』なんて言われて道路に出ようとした時、また目の前に路駐の車を見つけた。

車種とか詳しい事は解らないけど、オーナーと同じ車だと言う事は解る。

黒くて大きな車で、初めて乗った時アウトドア派なのかな? と思ったけど単に車高の高さで選んだらしい。

背後で、階段を上がる様な音がして振り返った。

でも見えるのは、誰もいない2階へと続く階段。

この車の人かな? ここは路駐はうるさくないしね。

考えながら、キャリーケースを転がした。

ホテルでの仕事は今日で最後。
ホテルでチェックインを済ませ、荷物を部屋に置く。

支配人の好意で空けて貰った部屋から霞んだ街並みが見えた。

夜だと、もしかしたら夜景が綺麗かも知れない。その前に、ライトアップされてる最中に、帰ってこられるかが問題かもしれないけどね。

とりあえずシフト時間までは暇なので、ホテルの一階でコーヒーを頼んでゆっくりしようと思ったら、何故か小さなケーキがついて来る。

「え? 頼んでませんが」

驚いたら、ウェイトレスのお姉さんが小さく腰を屈めて内緒話をしてくれた。

「吉岡さんでしょう? 今日で辞めちゃうって聞いたから、これはうちのシェフからの餞別ですって」

え? でも……私は、シェフにお会いした事もないですが?

「何故か解りません!」

ホテル側の人とはあまり接点ないし、会っても挨拶くらいだし……。

「いいからいいから。支配人もこの街の最高の思い出を……なんて、何故か意気込んでるし」

意気込まれても!

オロオロしているうちに、そのお姉さんは行ってしまっていた。

何がなんだか、解りませんが!?

その後も何故か、すれ違う従業員さんのお兄さんお姉さんに挨拶をされ、訳が解らないながら仕事の時間になって、シェーカーを振っていた。

「どうかした?」

中根さんが、グラスの中身を混ぜながら首を傾げる。

「なんだかホテルの人全員に私、今日が最後だって知れ渡ってるみたいで恐いです」

中根さんは少し考えて、出来上がったグラスをウェイターに渡しながら頷いた。

「まぁ、大きいけど、そんなに巨大なホテルじゃないしねぇ」

それにしても奇妙奇天烈と言うか……。

悩んでいると、洗い物をしていた庄司君に笑われる。
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