Love Cocktail
「仕事の後の一杯は、格別ですねぇ!」

そう言うと、中根さんは吹きだす。

「お前は親父か?」

「最近、普通に飲んでないので」

ちょっと笑うと、中根さんも笑った。

……笑って、それから苦笑した。

「吉岡さんは、1年前の事って覚えてる?」

中根さんはシンクに寄り掛かりながら、カウンターにビールを置く。

「1年前……覚えてる事と忘れてることがありますね」

「じゃあ、俺になんて言ったか覚えている?」

なんて言ったか?

頻繁にヘルプに入るようになったのは、正月頃だったと思うけど……。

「俺ってさ。正直言うと、女にだらし無い男だったんだよね」

「そうですね!」

飲みに来る若い女の子をよくナンパしてた。

まぁ、中根さんはけっこうルックスがいいから。ただ、彼女その1とその2に、睨まれるのだけは面倒だった。

「普通、そんなことは……とかって言わない?」

うなだれた中根さんに、ケラケラと笑ってしまう。

「私にそんな謙遜を求めないで下さいよ!」

「謙遜なのか? それ」

「たぶん?」

中根さんはビールをまた飲み、肩を竦めた。

「ま、そんなだから、女房に逃げられたんだけどね」

「それは自業自得ですねぇ」

スコンと頭を叩かれて、また笑った。

中根さんは溜め息をついて、ゴクゴクとビールを飲み干していく。

「なぁ、吉岡さん……俺が、吉岡さんを誘ったのは覚えてない?」

中根さんが、私を誘った話?

そんなのあったっけ?

「あんまり……記憶にないですね」

「夏だったと思うんだ」

「ごめんなさい。全く全然覚えていません」

中根さんは頭をかいて、困ったような顔をした。

「軽く海に誘ったら、すごい返事が返って来た」

「すごい返事ですか?」

頷かれて少し考えてみる。

キーワードは去年の夏。それから海。

「あ……!」

声を上げると、中根さんは首を傾げて私を見た。

「思い出した?」
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