Love Cocktail
でも、私がオーナーと何かあった、そう気付いたのは……中根さん一人だけだった。

それくらい中根さんは、私を見ていてくれた?

うわぁ。私も案外ニブイ人だったんだなぁ。

そして、無言でビールの缶を眺めながら苦笑を漏らす。

「それは駄目ですよ……中根さん」

そう返すと、微かな吐息が聞こえてきた。

「それじゃ、中根さんと一緒になっちゃうし」

中根さんは悪い人じゃない。

それは1年一緒に働いてきて解っている部分。

全部を全部知っているわけじゃないけれど、基本的に中根さんは寂しがり屋なんだと思う。

奥さんがいない。子供がいない。その寂しい部分を埋めようとして、誰かに傍にいて貰いたがって……そして誰彼構わずにナンパしていた。

「……そうだね。そう言うと思った」

「ありがとう。でも、ごめんなさい」

呟くと、首を振られる。

「解ってた。お互いに寂しいね」

サラッと言われて目を瞑る。

この街、最後の夜は……どこかとても優しい。







***



そして次の日。珍しく7時に起きて、枕もとのクリスマスツリーに目を細める。

昨日の夜、部屋に戻るとこの小さなツリーが出迎えてくれた。

その脇には、小さなサンタのぬいぐるみと一緒にハーフボトルの赤ワイン。

カードも付いていて、そこには『メリー・クリスマス』の文字。

支配人は、本気でいい思い出を作ってもらう気でいたらしい。

なんとも粋な演出だ。

ワインはおいしく頂いて、サンタさんはお持ち帰りOKと確認してからキャリーケースに詰め込んだ。

シャワーを浴びて身仕度を整え、キャリーケースとバックを持つと部屋を振り返る。

窓から遠く、今日は晴天の街並みが見えた。

色々な事があった4年間。最初はバイト探しに明け暮れて、ファミレスのアルバイトを始めた。

大学生のお兄さんお姉さんに囲まれて、いつの間にかお酒も強くなって、同年代の友達も出来た。

深夜組でつまみ食いしたり、仕事がオフの時には買い物にいったり、とても楽しかった。

そして次の一年はクオリティ系列の小さなバーで働いて、社長をこき使った……。

あの人は肝の小さな社長だった。
ここには、あまりいい思い出はないかも。

そして、一条グループのバーの面接に向かった。

新しいお店って事で、大募集かけてたんだよね。

面接会場は大きなビルの最上階で、そこで初めてオーナーと出会った。
< 86 / 112 >

この作品をシェア

pagetop