Love Cocktail
面接官にしては、かなり若くてびっくりして。

年齢的には、とても着こなせない様な色の渋いスーツ。
それに合わせた少し明るい同系色のネクタイ。
長めの髪は無造作にワックスで固められていて。

だけど、椅子を勧められた時の、そつのない笑顔に思った事と言えば……。

“当たり障りのない人”その一点。

いいな……と、思ったのは、あの爆笑を見てからだ。

黙っていたら冷たくも見える目が、本当に楽しそうに細められて、年上なんだろうな……とは思ったけど、可愛いとも思えた。

それから、面接に受かったけど……最初のうちは、まだ若いからって理由で、お酒に触らせて貰えなかった。

とにかくウェイトレス。

それが変わったのは、1年目の半ばぐらい。

チーフバーテンダーの志村さんが盲腸で倒れ、しかもバーテンダー2名が一気に無断で消えた。

あの日の事はよく覚えている。

飲み会の二次会組。学生サークルの合コンだとかでとても忙しかった。

そして、たくさんのお料理を運び終わって厨房に近づいた時、いきなり後ろから羽交い締めにされた。

「悪い吉岡、ちょっといいか」

「駄目ですって言っても拉致されてます~!」

「ま、それもそうだな」

見上げると至近距離にオーナーの顔があって、ドキドキしてる間に厨房に連れ込まれる。

「いいか、吉岡」

オーナーは羽交い締めをやめて、今度は私の両手を握って向かい合った。

「はい」

「バーテンダーの志村が倒れた」

真剣な表情のオーナーに、ただ黙って頷く。

「バイトの二人も、今日は無断欠勤だ」

「は、はい?」

「つまり、バーテンダーが出来るのは、今は君しかいない」

「にゃ、にゃんで!?」

噛みまくった私にオーナーは唇を歪ませたけど、それどころじゃないらしく、すぐ真顔になる。

「ご覧の通り、伝票が山積みだ。頼む!」

確かに飲み物オーダーが山になっていて、その脇にウェイター長が気遣わしげに覗いていた。

「俺も出来る限り手伝うから! お願いしたいんだけど!」

両手を合わされれば、断るのも気が引けた。

ウェイトレス用のシャツをまくりあげ、溜まりに溜まった伝票を手に頷く。

「バーテンダーの意地にかけて、どうにかして見せましょう!」
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