Love Cocktail
違う意味合いの“オオカミさん”だとしても、ナンパをかましてくるような狼さんが出て来るには、まだ早い16時なんですが……。

そういえば、あっちにいた最後の日も……早苗さんは妙だった気がするなぁ。

思いつつクロークに向かう。

荷物を受け取って、コートを着ながらホテルのロビーを歩いた。

どこが妙……と言うか。全て妙なのだけど……。

よく、解らないし、まぁいいか。

それにしても、何処に泊まろうか……このホテルは高いような気がするし。街中のホテルは、きっと雪祭りで埋まってるだろうなぁ。

ビジネスタイプのホテルを当たってみよう。

とすると、あれかな。

ホテルの自動ドアを出て、そこから見える白い高層ホテルを見た。

電話番号なんて知らないけど、当たってみよう。部屋がなければ、この辺りはホテルが多いから別を当たればいい。

そう思って、地下鉄の入口近くまで来た時……。

「吉岡!」

聞き覚えのある声に、足を止めた。

そんなはずはない。きっと空耳。絶対に幻聴。だって、彼は今頃ちゃんと席に座っているはず。だいたい、私に用があるはずがないし。

でも……ゆっくり振り返って、黒いコートを着ながら歩いてくるオーナーを見つけた。

何故!?

頭が真っ白になったけど、自然と身体が動く。

とにかく会いたくない。

だいたいなんで今更、呼び止められなくちゃいけない? と言うか何故、親戚の結婚式をすっぽかしてそこにいる?

ザクザクと、地下鉄の入口を無視して近くの公園に入り込む。

6月中頃だと縁日で賑わう公園の片隅で、子供が雪で遊んでいる。

正直、私はそれ所じゃないけども!

「待てって! 話があるから!」

さっきより近づいて来ている!

声がさっきより近い。

「私にはないです!」

「少し……止まれ。雪国育ちにはかなわないんだから!」

「嫌ですからっ! 立ち止まる義理も義務も私にはありません!」

「止まれって!」

「オーナーと私は、もう関係ありませんから!」

「俺は君のことが欲しいんだ!」

叫ばれた瞬間、足元が滑った。

「きゃぅ!」

雪にまみれて起き上がりながら、目をパチパチさせてみる。

うん。視界はとても良好。

雪の冷たさも、この堅い雪にぶつけた膝の痛みも、全て現実的だね!

雪玉だって、この通り! 普通に作れちゃうよ~!
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