私の声、届きますか?
この人は……確か黒井……翡翠君だっけ?

そんなことを思っていると声をかけられた。

「大丈夫?霧ヶ峰さん。」

え?私に言った?すごく焦った。

「あ、大丈夫。」

「初めて霧ヶ峰さんの声聞いた!」

確かに私は学校では初めて声を出したが……それ程まで驚くのかなぁ?

「霧ヶ峰さん喋れたんだね!」

「ええ、まぁ。別に喋れないわけじゃない。話したくないだけ……」

「へー。じゃあ俺は?いいの?」

え、あ、そういえば普通に黒井君と話してた。あー、学校にいる間は喋らないって決めてたのに……

「まぁ、無事ならいいや。じゃあ俺はこれで……」

あ、行っちゃう。お礼も言えてないまま……
そう思った瞬間に私は意識もせずに彼の制服を掴んだ。

「え?霧ヶ峰さん?」

「あ、その……ありがとう。驚いて落ちそうになったのを助けてくれて……とても嬉しかった。ありが……とう……」

私は知らず知らずのうちに涙を零していた。確かに私は家では窮屈で助けてもらうことが無くとても心から嬉しかったのは事実だ。

「え!?大丈夫?あっと……これ、ハンカチ使って……別に助けるのは当たり前だよ……」

「当たり前……そう……本当にありがとう。なにかお礼をしたいのだけど……黒井君はなにか望むものはある?」

「いや、別にいいよ。……あ、じゃあさ、またここに来ていい?霧ヶ峰さんの歌声、とても綺麗だったからまた聞きたいんだ。駄目かな?」

綺麗?……姉にも歌を聴いてもらう度に言ってもらえた言葉だ。なんだか……とても嬉しいんだ。こんなこと、初めてだった。

「うん、いいよ。そんなことでよければ!」

「ありがとう。霧ヶ峰さんの笑顔初めて見た。とっても可愛いね!」

うっ……!初めて姉以外に可愛いって言われた……なんか恥ずかしいな……




これが2人が出会ったきっかけだった。これからこの出会いが霧ヶ峰雪音の今までの人生を壊すとは知らずに…………
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