幻が視る固定未来
初めてというのは本当らしい。けどバットを逆に持つなどの可愛らしいドジはなく、知識としてある程度は野球を知っているようだ。

初めは初心者レベルの70㎞/hのボックスに入っていた。
なんというかあの姿でバットとヘルメットというのは……似合わないな。普段を知っているせいで余計に。
オレはまだバットは持たない。有希乃のバッティングを見てからやるつもりだ。

「どうだ有希乃、バットの握り心地は。竹刀とはまた違うと思うが」
「グリップが太いしゴムが効きすぎている。竹刀とは全然違う感覚」
「だろうな。それにゴムが嫌なら金属バットじゃなくて木製のにすればいいだろ?」

そう有希乃は迷うことなく金属バットを手にしていた。

「金属バットは基本」

金網越しで金属バットをオレに振りかざして主張するところか?
それにしても金属バットが基本か……誰が教えたんだろうな。というか一体何を参考に野球を覚えたんだろう。
……どことなく熱血野球の小説あたりが頭をチラつくな。
そんなことを考えている内にマシンは動きだし、そして70km/hのストレートボールを放つ。

「……」

無言のまま見送る有希乃。

おーい、バッティングセンターなんだから振らないと意味ないぞ。

とりあえず次の球も見送ったらこのツッコミを入れよう。
だけど次の球を有希乃はバットを振る……。

カッキーン! という効果音を予測していたオレだが、聞こえてきたのはゴソッという網にボールが当たる音。

つまり、
「空振りだな」
バットは球には当たらなかったということ。
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