幻が視る固定未来
少しホッとしたのか本人すら気が付いていないだろうが、相当表情は強張っていた。
けど、また表情は強張り出している。何か言うつもりらしい。とりあえず黙って聞いておこう。

「――灼蜘君はまずは誰かと付き合ってみたらどうかな。もっと軽い感じに。だから……だから私なら付き合ってあげるよ? 本気とはじゃなくて試しに、というか体験として」

芳原の不安なそうな表情と若干震えてる言葉。ただそれだけを思っていれば、自然とオレの口からは肯定の言葉が出てただろう。
試しにならいいかもと、相手が気軽に話せる芳原ならいいかもしれないと思ったのは確か。だけどそれを言わせなかったのは……なんでだろうか?

オレの口からは肯定ではなく、
「いくらの芳原でも駄目らしい。そうゆう気分にはなれない。ごめん」
否定の言葉だった。

「うーんと……気にしないでね? だって本当に付き合うって言った訳じゃないし、試しにどうかなって思っただけ」

オレの返事を聞くと芳原は明るく答えた。それこそ本当に気にしていないように。だけど逆に落ち込まれたらこの先芳原とは話しにくくなる。それをちょっと残念と考える地点でやはり芳原とは親しいのだろうな。
この話の後はやけに明るい芳原と残りの昼休みを過ごした。
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