幻が視る固定未来
オレの部屋に戻ってきてやっと有希乃の手を離した。

「さっき、有希乃は辞めるつもりだったのか……」

オレは真っ直ぐに有希乃だけを見て言う。それほど真剣ということ。
さっきの表情は間違っているかもしれないから。
けど、やはりいつでも現実は残酷だ。だから有希乃の首は横ではなく、縦にゆっくりと振られる。

「どうしてだ!? 辞めるとなるとオレとはもう会えなくなるんだぞ。どうしてそう簡単に決められる。オレ達は、恋人だろ?」
「私の主は灼蜘。だけど雇ったのは灼蜘の母。だからその母が辞めろというなら、私は従うしかない」
「本当にそんな理由で決められるのか」
「決める、決めないではない。これは決定。動かざる決定事項。なら私は従うだけ。だから私は灼蜘の召使いを辞める」

そんな当たり前のように言わないでくれ。
もしそれが決定だとしても、せめてもっと悲しい顔をしてくれ。どこかに後悔の色を見せてくれ。
……それなら、オレはもっと抗える。母上がその決定を覆すまで。
だから有希乃、たった一言でいいんだ。辞めたくないと言ってくれ。

――だけど、いつまで経っても有希乃の口からはその言葉は出てこなかった。
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