幻が視る固定未来
「こんなことになるなんて。奥さまになんと報告すれば……」

どうやら入口では助歌が嘆いているようだ。
けど、そんな嘆きなど聞こえてくるのは一度きり。二度目は聞こえない。

オレはずっと有希乃指を感じていた……?

いつまでも離さない有希乃。それはオレの涙が止まらないから? 流れないようにしているのか。

「はは、ありがとう有希乃。もう大丈夫。悪いな困らせて」
「どうすればいいか分からない。どうすれば良かった?」

有希乃が指を離すと最後の粒は頬を流れた。それ以上は、もう流れない。

「そうだな、有名な台詞から“笑えばいいんじゃないか”きっと」
「……難しい」

本当にそう思うなら、ほほ笑みくらいは見たいんだけどな。

「オレは笑ってほしい。けどそれは本当に笑いたいときでいいさ。上っ面の笑みなんて見たくないし、心から嬉しい時に笑ってくれ」
「今の灼蜘の様に?」
「え……? あぁそうだな」

そうやってオレは笑顔で答えた。
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