幻が視る固定未来
「今の結構よくなかったか!?」

オレは興奮のまま有希乃に感想を聞いていた。それほどの手ごたえを感じたってことだ。

「少し落ち着いて。こっちが集中できない」

有希乃はオレの手を取って、今まさに治療の真っ最中。
とりあえず有希乃の治療が終わるまで黙っていよう。

怪我の状況はかすり傷? いやいや見ただけでも腕があらぬ方向に曲がっていた。間違いなく骨折していただろう。
けど、不思議なことにその感覚を持てないのは痛覚が全く機能していないから。骨折したにも関わらず、オレに痛みはない。だからこそさっきみたいに有希乃に話しかけられたという訳だ。

変な感覚だな。骨折してるのに何も感じないということは。この世には剣で心臓刺されてもそのまま刺さった状態で起き上がる奴がいるらしいが……これとは別か。つーかそんな奴もいるはずもないか。何を思っていたのか。

そういえば明日は母上の言った期限の日だな。オレと有希乃を引き離すような手段は母上からも助歌からもない。ということは諦めた? 油断するつもりはないがこの場ではどう邪魔も出来ないだろう。

だからオレはこの訓練のみ集中する。その結果、骨折という代償を払って手に入れた感覚、それが神素の解放。
怪我をする覚悟で選んだ有希乃への反撃。それが神素の解放の域に達した。いや、まだ有希乃の口からあれが神素の解放だと聞かないと確信は出来ないが。
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