幻が視る固定未来
「幻視様、分かっているはずです。いくら言おうとも覆されないことなんです。唯一覆せるとするなら、今日ではなく昨日。そして今はもう日は変わって今日になってしまった。分かりますね」
「灼蜘。確かに木下は幻視の特訓にしても、なんの訓練にしても優秀でしょう。しかし、それ以前に、貴方は玄武という道を踏み外している。間違いなく踏み外した原因は木下にある。だから、あなたが玄武として生きるなら、木下とは離れなさい」

玄武となるためにオレは有希乃と離れないといけない。
……だったら逆に玄武にならないならオレは有希乃といられるのだろうか。
玄武ではないオレ。それは運命に刃向う行為にして、別人になるということ。

「無理だ……」

そう、オレは玄武。それはどうあっても変えられないし、変わることなんて出来ない。オレの未来は固定されてるんだから。

「でも……」

それでも玄武でありながらも有希乃もとる欲深い感情が渦巻く。もっというなら有希乃と離れたくない理由があるから。
――それはただ召使いとして必要なのではなく……。

「オレは有希乃が……」
「私は今日限りで去ります」

言わせてくれなかった。誰でもなく有希乃がオレの気持ちを言わせてくれなかった。それも完全な否定の言葉で……。

そんなことを言われたらオレはどうすればいい?
誰に、誰に……誰に文句を言えばいい。

何も言えない限りオレは肯定し続けているということ。
その間に恐ろしいまでに話は進行していく。ただオレだけをおいて。
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