幻が視る固定未来
休憩時間というか自由時間。それはほんの一時間だけなのだが結局いつもやることのないオレは、音楽を聞いているぐらいしかすることはない。
けど今日は違う。ある意味ではこの時間を待っていたと言っても嘘ではない。
だからオレは木下に聞きたいことを全て発散するかのように聞くことにする。
ちなみに木下は、オレが勉強を終わると同時に読書を止めていつのも無表情で立っている。
とりあえず話をしたいから木下にはテキトーなイスに座らせてオレもベッドに座った。

「こうやってちゃんと話すのは初めてになる。まずは色々と聞きたいことがあるがとりあえずお前のことは木下でいいな?」
「前からそう呼んでる」

まぁ確かにその通りではあるがな。一応聞いておかないといけないし、オレの言いたいことの前立てでもあるし。

「それじゃ木下、お前はオレのことをなんて呼ぶ?」
「前から呼んでいる」
「……?」

数少ない会話を思い出すが呼ばれたことがあっただろうか? いや、ないよな。
木下は一体いつのことを言っているのか分からないが、別にオレが言いたいことに影響はないからいいとしよう。
オレは考え込んでいると、ふと木下が無表情をそのままに口を動かしたかすら分からないまま答える。

「――長が幻視様」

また考え込みそうになったが言いたいことはなんとか理解出来た。つまり木下自体はオレを呼んだことはないが、召使い長の助歌は『幻視様』と呼んでいるから自分もそう呼ぶということだろう。
言ってしまえば手本となる人の言うとおりにする。つまり自分は考えるまでもないということ。
だからこそオレは少し不敵に笑った。恐らく今からオレが言うことは木下の無表情の仮面にひびを入れれるだろうから。だからオレは迷うことなく木下に言う。
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