幻が視る固定未来
「はぁはぁ……」

呼吸も荒く、目覚めは最悪だった。
けど目覚めた前の感覚通り、オレは自分の部屋のベッドで寝ていた。たった一人、オレだけが。

誰もいない? 有希乃がいない。まだ話しているのか……。普通なら目覚めるまで待ってるはずだ。それでいないなら、きっとまだ話している。

……母上の部屋に行く気持ちに駆り立てられ、すぐに起きようとしたのに、あるものを見た瞬間、オレんぽ動きは止まっていた。

「……5時、だと?」

すでに今は夕方。
驚くのも無理はないんだ。だってオレ達が母上の部屋に行ったのは昼が過ぎてすぐ。こんなに時間が経っているなら、全て答えが出てしまっている。
そう、答えは出ている。ここに有希乃がいないのだから。

――だけど、それでもまだ答えは出ていない。あくまで予想。
ひょっとすればたまたま出ているだけでひょっこりドアを開けて戻ってくるかもしれない。
期待を込めた眼差しに答えてくれたのか。オレがドアに手をかけなくても勝手に開かれた。

そして現れたのは……。

「助歌」
「はい、幻視様。お目覚めになられたようですね」

間違いなく助歌だった。
どこをどう見たって有希乃には見えない。この感情のない無表情ではない。オレが見たいのはなんとなくでも感情の見える、あの無表情なんだ。
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