幻が視る固定未来
そのままの光景を説明すると、有希乃の部屋は本だからではなく、本棚一つにきちんとまとめられている。
もちろん本棚だけという訳でもない。
壁には色んな服が掛けられているし、色とりどりの靴類も並べられている。
可愛いキャラクターのぬいぐるみもベッドに座りこんでるし、小物系で華やかに着飾られた机。

なんか買った物を片づけないで飾っている部屋。それが有希乃の部屋だった。
――けど、全てのものは見覚えがある。だって全て一緒に買い物に行った時に買ったものだから。ベッドのぬいぐるみなんてオレがゲームセンターのUFOキャッチャーで硬貨30枚くらい使ってやっと取った戦利品なんだからな。

オレとの買い物を思い出としてこうやって飾ってくれていたのは嬉しい。これが有希乃の部屋に入れたくなった理由だろうか。もしそうなら可愛いところがあるな。
オレは素直に喜んでいたがすぐに気が付く。

――どうしてここにこれがある?

喜びは一瞬で下落して地獄に突き落される。
オレとの思い出の物がここにある。けど有希乃はここを出て行った。ならば“必要なもの”は全て持っていったはず。なら、ここに残っているものは……。

そうだ、オレは有希乃の部屋に来たんじゃない。元有希乃の部屋に来たんだ。何かあるわけない。あってもそれは不要なものばかり。

だから有希乃にとってオレとの思い出は……“いらないもの”ということか。

ひょっとして、完全にオレとの縁を切るってことなのか? また会いたいなんて思っているのはオレだけなのか。
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