幻が視る固定未来
「だったらオレのことは灼蜘って呼べ。もちろん様付けなんかするなよ? 友達感覚で呼べ」
「……」

あぁそうさ、即答なんて出来る訳がない。けど相変わらずの無表情は鉄壁らしい。いやひょっとしたら内心では嵐のように困惑が吹き荒れているのかもしれない。

ちなみにオレを名前で呼び捨てにしろというのは全ての召使いに言ったのだが、主の息子であるオレにそんなことも言えるはずもない。結局助歌の『灼蜘様』が限界だった。いつの間にかいつもの幻視様に戻ってたしな。
それが召使いとしては当たり前なのだろう。呼び捨てにすることは忠実に従うことだが、敬意をはらって様付けにして呼ぶことのどちらも召使いとしては悪いことではない。

この質問はただ単純にどうゆう反応を見せるかというオレの悪戯みたいなものだ。
そうゆう意味ではやはり、木下も忠実な召使い故にオレのことを名前で呼び捨て、しかも友達感覚でいうことなど出来ない。
――ふと、この“友達感覚”とはどんなものなのか。そんなことを考えたこともあった。クラスメイトははっきり言って呼ばれることなどほとんどないし、オレを名前で呼び捨てにするのは母上だけだし。この先いつかは友達感覚で呼んでくれるものでも現れるだろうか? 同じ守護四神ならあり得るかも知れない。

そんなことを考えていたせいか、いつの間にか木下が首をかしげて瞳を閉じていることに気が付くのが遅れた。
まぁ分かっていたことだ。
そう思いオレが溜息をついた刹那、木下は唐突に首をかしげたままオレを見つめて口を開く。


「……ヤクモ」


「は?」

何か言ったようだが意味を理解出来ないオレはただ反射的に聞き返してしまった。名前を呼ばれたような気もするが恐らく勘違いだろう。


「……灼蜘」


「ん?」

いや待て、そう聞こえるだけだろ? 声が小さいから何かと勘違いしてるんだろうな。じゃないと名前を呼んでいるように聞こえる。

「感覚とは人によって違う」
「まぁそれはそうだろうな……?」

と、オレは何を言い返しているのだろう。ちゃんと考えれば木下の言っている意味を理解出来るだろうにきっと認めたくないんだろう。
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