幻が視る固定未来
「行き止まりだね。もう逃げることなんて出来ないよ? 別に問い詰めるつもりはなかったけど、どうしても放っておけなくて」

追いついた芳原は苦笑いしながら言っている。
オレの方が段数が上だから見下す格好になっている。だけどきっと平坦でも変わらないだろう。

「オレに構うな」
「それは無理だよ。放っておけないって言ったでしょ?」

芳原は当たり前のように言い返してくる。
はっきり言ってその態度に苛立ってくるが、教室にいた地点で苛立っていたのだから変わることはない怒りの感情。

そんな苛立ちが募るのだから、抑えきれるはずの感情の器は破裂するのは時間の問題ではなかった。
むしろ、今、破裂した。

「ふざけるな! しつこいんだよ。オレは一人になりたんだ。迷惑だ、さっさと失せろ」

階段で響く自分の声は今までにないくらい反響している。
与える威圧感だって相当なものだったはず。ましてや初めて声や感情、態度に表して怒りをぶつけるんだから、その相手には完全に恐怖を植え付けたはず。
ここにいたくないくらい脅え、そして逃げ出す。それがオレの思った展開だった。

――だけど、実際に芳原は目の前に震えの一つも見せずにただオレを見つめている。
そして、たった一度だけ納得するかのように頷き、口を開く。

「灼蜘君、大丈夫だよ? 私は無力かもしれない。だけど、たった一言でも相談することで変わることだってある。一人で抱え込んでいると、それは自分の思う展開でしか考えられない。だから私を信用して」

恐ろしいまでに冷静で、そして優しい言葉。ついさっき怒鳴られた者の言葉とは思えないほど。
< 182 / 383 >

この作品をシェア

pagetop