幻が視る固定未来
そんな言動に心を打たれ感動するのが普通かもしれない。だけどオレは違う。もっと、よりもっと苛立ちが募った。

「お前に相談したら、この状況は変わるのか!? 変わるわけがない。いくら相談したところで戻っては来ないんだよ!」

芳原が無力なのは当たり前。そしてオレ自身が無力なのは今の現状から確定。
ただ怒りをぶつけることしか出来ないオレだが、言うしかない。そうしないと芳原は目の前から消えない。

「それが灼蜘君の悩みだね? 誰がいなくなったの? ひょっとしてあの召使いさん…確か木下さん、だったかな?」

驚きで何も言えない。こんな状況でも芳原は冷静に、ただオレの言葉を分析して答えを見つけてしまった。
オレに足りないのはこの冷静さだろうな。だけどそんなもの、今更求めたところで意味はない。それに今は相談したところで状況が変わるのかということ。
はっきり言って無理に決まってる。

「いいから、オレに構わないで。有希乃のことを言わないでくれ」

堪えたのは怒りではなく悲しみ。

「ご、ごめんなさい」

今までどんなことに対しても冷静だった芳原が、今になって慌てていた。
視界には芳原の姿はない。悲しみに堪えるが故に目を閉じていた。
ゆっくりと聞こえてくるのは階段を昇る音。

不意に感じるは温もり。そして甘い香り。

いつの日か抱きしめた小さな体とは違った、癒しのある抱擁。

気が付けばオレは芳原に抱きしめられていた。同じ段数の元、横から、そっと優しく。
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