幻が視る固定未来
こんな“楽”な気持ちは久し振りだったかもしれない。だってこの感覚は有希乃といた時ぐらいしか感じなかったものだから。
まさかこの感覚を有希乃以外に感じるとは思わなかった。きっと有希乃に会ってなければ、オレは芳原といい関係になっていたかもしれない。

今なら、いなくなった有希乃の代わりを芳原が出来るかもしれない。

……本当に? 本当にか。芳原には可哀そうかもしれない。だけどオレは有希乃が好きだ。どこのどの場所でもどんな状況でもオレ、オレは……。

「有希乃が好きだ」

脈絡もなく、オレはそんなことを口走っていた。
もちろんのこと芳原は完全に驚きで機能が停止している。無理もない。オレもそうなんだからな。

「……あはは」

そんな機能停止の中、なんとか機能したのは驚きのまま笑う芳原だった。
すまん、ほんとはもっと言うことがあったんだがちょっとな、雰囲気に負けたって奴だ。

「なんとなくだけど分かってたんだ。灼蜘くんが木下さんのこと、どう思っていたのか。なんとなく、いつもの会話も女子好みことばっかりに興味もっていたような気もするし。それだと相手を考えると木下さんかなって」

す、鋭い。その解答はパーフェクトだ。非の打ちどころがない真実だ。

「悪い、それ間違ってない」
「だったら、その木下さんがどうしていなくなったの?」

余計に聞きたくなったことだろう。だけど安心しろ、全て答えてやろう。
……ただし、オレの正体以外はな。
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